東宝版ミュージカル『エリザベート』は、この人無くしては話が成り立たない!
メインキャストの一人、ルイジ・ルキーニについてまとめました。ルキーニはオーストリア皇后エリザベートの暗殺者。当作品では舞台全体を動かしていく狂言回しの役割を担った非常に重要な役です。
※2022~2023年のエリザベートキャスト発表に伴い、記事を修正しました。(2022年1月27日)
黒い帽子、黒いジャケット、黒いズボンは、ルキーニが逮捕された時の服装。ルキーニを演じる役者さんは舞台で同じ服を着ていますね。
目次
東宝版歴代ルイジ・ルキーニ
年表(年齢つき)
敬称略
- 初、②→初:ルキーニ役初、②:ルキーニ役2回め、以降同じ
- 出演時の年齢
- ルキーニ役初出演は太文字
年 | ルキーニ役 |
---|---|
2000年 | 髙嶋政宏(初・34歳) |
2001年 | 髙嶋政宏(②・35~36歳) |
2004年 | 髙嶋政宏(③・38~39歳) |
2005年 | 髙嶋政宏(④・39歳) |
2006年 | 髙嶋政宏(⑤・40歳) |
2008年~ 2009年 | 髙嶋政宏(⑥・42~43歳) |
2010年 | 髙嶋政宏(⑦・44~45歳) |
2012年 | 髙嶋政宏(⑧・46歳) |
2015年 | 山崎育三郎(初・29歳) 尾上松也(初・30歳) |
2016年 | 山崎育三郎(②・30歳) 成河(初・35歳) |
2019年 | 山崎育三郎(③・33歳) 成河(②・38歳) |
2020年(公演中止) | 尾上松也(②・35歳) 上山竜治(初・33歳) 黒羽麻璃央(初・26~27歳) |
2022年~ 2023年 | 上山竜治(初・36歳) 黒羽麻璃央(初・29歳) |
髙嶋政宏(たかしま まさひろ)
生年月日 1965年10月29日
出生地 東京
身長 185cm
血液型 B型
きねちゃん
ルキーニ役で出演した年
2000年、2001年、2004年、2005年、2006年、2008年~2009年、2010年、2012年
出演時の年齢
34歳~46歳
山崎育三郎(やまざき いくさぶろう)
生年月日 1986年1月18日
出生地 東京都
身長 177cm
血液型 A型
愛称 いっくん
きねちゃん
ルキーニ役で出演した年
2015年、2016年、2019年
出演時の年齢
29歳~33歳
尾上松也(おのえ まつや)
生年月日 1985年1月30日
出生地 東京都
身長 178cm
きねちゃん
ルキーニ役で出演した年
2015年、2020年(公演中止)
出演時の年齢
30歳
成河(ソンハ)
生年月日 1981年3月26日
出生地 東京都
身長 168cm
血液型 B型
きねちゃん
ルキーニ役で出演した年
2016年、2019年(予定)
出演時の年齢
35歳~38歳
上山竜治(かみやまりゅうじ)2022~2023年出演
生年月日 1986年9月10日
出生地 東京都
身長 175cm
血液型 O型
ルキーニ役で出演予定の年
2022~2023年(予定)
出演時の年齢
36歳(予定)
黒羽麻璃央(くろばまりお)2022~2023年出演
生年月日 1993年7月6日
出生地 宮城県
身長 180cm
血液型 AB型
愛称 まりおくん
ルキーニ役で出演予定の年
2022~2023年(予定)
出演時の年齢
29歳
なぜエリザベ―トを殺したのか?ルイジ・ルキーニの生涯と人物像
恵まれない子供時代
ルイジ・ルキーニ(ルイジ・ルケーニ)は1873年にフランス・パリで生まれました。
ルキーニはシングルマザーだった母親に生後すぐ養育を放棄され、孤児院や里親の元で育ちます。
9歳からすでに働き始めた彼が、学校に通えたのは生涯で1~2回だけでした。
ルキーニは自らの人生を「みじめだった」と訴えています。母親に存在を否定され置き去りにされ、恵まれない人生を強いられたのだと。
ヨーロッパ各地で活動し、イタリア軍に徴兵されたのちは、有能な兵士として何度も表彰されます。しかし給料に不満を抱き軍を除隊。その後は、スイスへ移住し無政府主義思想に陶酔していきました。
無政府主義思想とは、国家や権威の存在を有害という考えのこと。時として、国家の転覆をもくろみテロや暗殺など破壊行為に及ぶことが歴史上ありました。
エリザベートを狙ったのは”たまたま”
ルキーニは、スイスで犯行に及ぶこととなります。
「有名人であれば誰でもよかった」
のちに獄中でこう語るルキーニが最初に狙ったのは、イタリア国王ウンベルト1世でした。しかしルキーニのいるスイスからイタリアまでの旅費がないため、この計画を断念。
次のターゲットが、ジュネーブに滞在していたフランスの王位継承候補オルレアン公フィリップでした。しかし彼は当初の予定を変更し、すでにジュネーブを去っていました。
そこで狙われたのがエリザベートです。ルキーニは新聞でエリザベートの居場所を知りました。
お忍びで来ていたエリザベートですが、情報が漏れていました。エリザベートへの警護の話も警察から申し出があったのですが、エリザベートが警護を断っていたことも不運でした。
1898年9月10日。レマン湖のほとりで、ルキーニはエリザベートの胸に尖らせたたヤスリを突き刺し殺します。
この時ルキーニは25歳。まだ青年とも呼べる年齢でした。
スイスで逮捕されたルキーニですが、スイスでは死刑がなかったため終身刑となります。彼は死刑制度のある土地へ移ってでも、死刑にして欲しいと望んでいたようです。
逮捕後のルキーニは模範囚でフランス語の勉強もし、子供の頃からの苦難続きの人生も文章にしていました。
しかしこの文章が忽然と消えてしまい、ルキーニは取り乱します。そのうち狂乱するようになり、11年の獄中生活のあと、ベルトで首を吊って自殺します。亡くなったのは37歳のときでした。
エリザベートの「ルキーニ」について
ストーリテラー
ミュージカル『エリザベート』でのルキーニは、作品の冒頭からラストまでほぼ出ずっぱりで、作品の理解を助ける説明役にして進行役です。
この舞台は40もの断片的なエピソードが集まった作品ですが、個別のエピソードの隙間を埋めて物語として組み立てていくのに、ルキーニはとても重要な存在です。
そして役者さんのルキーニのありようによって、作品の印象が変わります。
ストーリーテラーに徹して、傍観者的な目線外側から眺めているルキーニだと、作品がドキュメンタリーのように感じたり、
テロリストである彼個人として物語の内側に入ることもあり、彼の妄想の世界でルキーニが完全に物語を動かしているようにみえる事もあります。
また、エリザベートたちを嘲笑いつつも、物語に入り込めず、世界から見捨てられた存在のようにみえることも。
ルキーニが歌う曲は、ルキーニの精神状態を表した複雑なメロディーで高音が多いのが特徴です。それも美しい声で歌い上げるのではなく、しゃべるように歌うお芝居の力が要求されます。
ラテン系の陽気さ、テロリストの狂気、劇場の空気をつかみながら進行していくノリの良さ、そして観客からは愛されるための「愛嬌」。歌も踊りもある役ですが、特にお芝居を巧みに操れる役者さんが選ばれる役ではないかと思います。
冷や水をかけるようにリアルをみせる存在
ヒロインで絶世の美女エリザベートが遭遇する数々の不幸・・・その姿や美しいメロディーに観客が夢見心地になっていると、ルキーニが現れ「騙されるな」「こんなのいんちきだ」とののしります。
例えば2幕最初のキッチュでは、エリザベートがエゴイストだと語り、一人息子ルドルフの死に悲しむエリザベートにルキーニがカメラを向けるキッチュリプライズでは、彼女の悲しむ姿も見世物にしてしまいます。
特にキッチュリプライズは、エリザベートにとって最大の不幸に見舞われているシーンで、嘲り笑うルキーニに、思わずドキッとします。
ルキーニが歌う「キッチュ」の意味
エリザベートの2幕最初にルキーニが歌う「キッチュ(Kitsch)♪」。
リズミカルな音楽に合わせて客席からは拍手が度々起こるシーンです。ルキーニが客席に降りてアドリブを言うこともあります。
キッチュとは、陳腐なもの、悪趣味なものを表しますが、このシーンでは「偽物、いんちき」といった意味で使われています。舞台でも出てきますが、家族団らんの絵葉書やシシィとフ仲睦まじいランンツ・ヨーゼフ夫妻のグラスなどは、全部嘘だよ、とルキーニは伝えています。
スイスの銀行に隠し口座があり、私たち観客が聞きたいことと事実は違うだろ、というこの作品のヒロインに対して痛烈に皮肉を浴びせている曲です。
トートとルキーニの関係
トートとルキーニの関係は、演じる役者さんによって異なり、観客の想像にゆだねられている部分です。
ミュージカル『エリザベート』でのトートは、エリザベート自身が作り出した鏡のような存在と解釈できる部分があります。(これも演者さんや観客によって解釈がゆだねられるところ)
ルキーニも、彼が権力者を殺すことに自分の人生の意味を見出していたと考えると、トートはルキーニが生み出した幻想で鏡合わせの存在と捉えることができます。
ルキーニが真の支配者で、遠くからトートを操るイメージを持ちながら演じていた 尾上松也さん(2015年ルキーニ)https://ent.living.jp/column/matsuya/47030/
一方、死を願うエリザベートが最初に生み出した存在がトートと考えると、トートからみたルキーニはエリザベートを黄泉の世界へ連れていくのに都合の良い存在。トートにとってルキーニは便利な道具だったという解釈もできます。
または、そんなトートの意図に気づかず、ルキーニは自分をトートの使者だと思っている可能性も。
役者さんの演技や、同じ役者さんでもその時々のお芝居によって、印象が変わる面白い関係性です。
きねちゃん